2026年3月31日、山口県は12年ぶりに計算し直した。全壊は、1.6倍になった。
山口県のBCP(事業継続計画)── 県内の災害リスクと、建物が無事でも事業が止まる経路を確かめるページです。
2026年3月31日、山口県は南海トラフ巨大地震と周防灘断層帯の被害想定を12年ぶりに見直して公表しました。令和6年能登半島地震を受け、ボーリングデータや河川の測量など、県独自のデータで計算し直したものです。
全壊・焼失は9,738棟。前回想定の5,926棟から、約1.6倍になりました。避難者は1日後で24万5,720人と、前回より約7万8,000人増えています。経済被害は約1.9兆円です。
数字が増えたのは、想定の前提が変わったからです。県独自のデータで、より実態に即して見えるようになりました。
そして県の作業は、まだ途中です。県内の活断層と日本海の想定は現在見直し中で、2027年3月末までに公表されます。リスク地図が描き直されている今は、自社の計画を描き始める——あるいは描き直す——最良のタイミングでもあります。
山口県のリスクは5枚のカードで見る
標準の4枚(地震・水害・土砂・インフラ)に、「二つの海・臨海コンビナート」を加えた5枚です。山口は瀬戸内海と日本海の両方の沿岸に、ハザードと物流の拠点を持ちます。全国でも珍しい県で、1枚に畳むと固有性が消えます。
カード1: 地震・津波 —— 12年ぶりの計算し直しと、国の評価が指す足元
新しい被害想定(2026年3月31日公表)では、死者502人(うち津波474人)、全壊・焼失9,738棟(液状化3,124棟、津波5,844棟)とされています。亡くなられる方を一人でも減らすことが第一で、その次に来るのが事業をどう戻すかです。避難者は1日後で245,720人、災害関連死は641人から1,282人。経済被害は約1.9兆円です。
最大震度は6強(柳井市)。震度6弱のエリアは岩国市、柳井市、周防大島町、和木町、上関町、田布施町、平生町。津波の浸水想定区域は9,768ヘクタールです。
「山口は地震が少ない」——その印象とは裏腹に、国の評価では、県内に高い区分の活動区間が3つあります。 周防灘断層帯の主部区間は防府市南方沖から国東半島北西沖まで約44キロにわたり、平均活動間隔をすでに上回る時間が経過していると評価されています。菊川断層帯の中部区間は神田岬の北西沖から下関市に至り、安芸灘断層帯は県東部・岩国方面の沖合です。
地震の少なさは「備えの空白」を生みやすく、それ自体が事業のリスクです。
なお、県内の活断層と日本海の地震・津波の想定は現在見直し中で、2027年3月末までに公表される予定です。次の地図が出る前に、いまの地図で備え始めてください。
県内の主要活断層帯(国の長期評価)
地震調査研究推進本部は、主要活断層帯で起こる地震の発生確率を相対的な高さで区分しています。県内では、次の活動区間が最も高い区分(Sランク)にあります(2026年1月1日算定)。
- 菊川断層帯 中部区間(マグニチュード7.6程度)
- 周防灘断層帯 主部区間(同7.6程度。海域・沿岸に分布)
- 安芸灘断層帯(同7.2程度。海域・沿岸に分布)
この区分は、発生時期や個々の事業所の被害を予測するものではありません。国の評価の区分は、被害の大きさを意味しません。区分が低い断層でも地震は起こり、国は「ランク分けに関わらず、どの場所でも強い揺れに見舞われるおそれがある」と注記しています。自社の所在地と断層帯の位置関係は、県の被害想定と国のハザードマップで確かめてください。
断層の評価は定性表現で示しています。国(地震調査研究推進本部)は今後30年以内の地震発生確率が3%以上を「Sランク」と表記し、地震後経過率(前回の活動からの経過時間を平均活動間隔で割った値)が0.7以上の活断層には、ランクに「*」を付記しています。同じ表に載る弥栄断層は島根県、中央構造線断層帯 石鎚山脈北縁西部区間は愛媛県に位置するため除いています。出典: 地震調査研究推進本部「山口県の地震活動の特徴」(2026年1月1日算定)/同「今までに公表した活断層及び海溝型地震の長期評価結果一覧」(令和8年1月14日現在)注3
自社で確認すること: 県平均ではなく、自社の住所での震度と津波浸水。県の津波浸水想定図で引けます。
カード2: 豪雨・土砂 —— 線状降水帯は、橋を持っていく
2023年6月30日から7月1日にかけて、山口県で線状降水帯が発生しました。下関市豊田では1時間に106.5ミリと年間1位の記録を更新し、山口市では24時間で289ミリ。厚狭川の増水でJR美祢線の第6厚狭川橋梁が流失し、山陰線でも粟野川橋梁が傾きました。
山陰線の全線での運転再開は、約2年3か月後の2025年9月27日でした。美祢線は鉄道での復旧は行われず、バス輸送へ移行する方針となっています。
美祢線は2010年7月の豪雨でも厚狭川の増水で被災し、1年2か月運休しました。同じ川で、13年のあいだに2度です。
2009年7月の中国・九州北部豪雨では、防府市で大規模な土砂災害が発生しています。県土の約7割が中山間地域で、山地・河川・沿岸市街地が近接しており、短時間の強い雨で道路・斜面・河川が同時に影響を受けます。
自社で確認すること: 主経路と代替経路。そして、鉄道が長期に止まったときの通勤と配送の代替。
カード3: 二つの海・臨海コンビナート —— 山口だけの二正面
瀬戸内海側には、周南・宇部・防府・岩国などの臨海コンビナート(石油化学・鉄鋼・素材)と、山陽の道路・鉄道・港湾があります。日本海側には、下関・萩・長門の港湾と漁港、水産、そして山陰の交通網があります。
両方の沿岸に津波の浸水想定があります(瀬戸内海側は南海トラフと周防灘断層帯の最大包絡で整備済み、日本海側は見直し中)。臨海の製造は、電力・用水・港湾・原材料・顧客工場に依存します。自社の安全な停止だけでなく、ユーティリティと取引先の共同での復旧が論点になります。
これは強みにも反転します。 片方の海、片方の交通軸が止まっても、もう片方で代替する発想が立地上は可能です。ただし、代替の港と経路を平時に決めてある会社に限ります。
自社で確認すること: 瀬戸内側が止まったときに日本海側を、山陰側が止まったときに山陽側を使う手順。
カード4: 交通・物流の停止 —— 山陽と山陰、両方が細い
山陽側は、山陽新幹線・山陽線・山陽道・国道2号に貨物と通勤が集中しています。2018年の西日本豪雨では、JR山陽線の長期不通が広島から山口にかけての部品と通勤を直撃しました。
山陰側は、山陰線が2023年の被災から全線再開まで約2年3か月。山陽と山陰を結ぶ短絡線である美祢線は、鉄道での復旧は行われずバス輸送へ移行します。
下関は本州と九州の結節点です。関門橋と関門トンネルの停止は、県内にとどまらない広域の影響を持ちます。
自社で確認すること: 代替輸送を「別の道路」で終わらせない。港、荷役、受入、保管、検収、入金まで一続きで。
カード5: インフラ・ライフライン
新しい南海トラフの想定では、直後の断水85,592人、停電13,443軒、固定電話の不通7,546回線、ガスの供給停止4,672戸とされています。ガスは前回の想定では0戸で、今回から新たに計上されました。
臨海コンビナートの用水・電力・危険物の安全は、個社では完結しません。
自社で確認すること: 断水・停電・通信不通が同時に来たとき、何時間で何が損なわれるか。
自社が無傷でも止まる
無傷の工場が、2か月戻らなかった
2018年7月の西日本豪雨で、防府市の完成車工場は操業を休止しました。生産設備への直接の被害はありませんでした。
7月12日から生産は再開されます。しかしJR山陽線と道路の寸断で従業員の通勤と部品の供給が滞り、8月から9月は生産量を抑えた操業が続きました。残業や休日稼働を含む通常の操業に戻ったのは9月10日。鉄道の復旧を待ってのことです。
同社の7月の国内生産は前年比で約3割減。東日本大震災の直後以来の落ち込みでした。安全を最優先した的確な判断の積み重ねであり、そのうえでこれだけの時間がかかりました。
県内の大規模な工場が、無傷のまま2か月、フル稼働できませんでした。理由は「建物」ではなく、「通勤路と取引先」です。
中小企業なら、どうでしょうか。従業員が来られない2か月、部品が届かない2か月を、資金繰りは耐えられますか。
「復旧を待つ」が前提にできない
沿線の通勤・通学・観光・配送は、代行バスと迂回路での長期の運用を強いられました。山陰線で約2年3か月。美祢線では、輸送手段そのものが変わることになりました。
代替輸送を「別の道路」だけで終わらせない。港湾・鉄道・道路の稼働、荷役、受入、保管、冷蔵と品質、顧客側の検収、入金までを一続きで確認する。山口では、これが観念論ではなく実際に起きたことです。
二つの読者へ
まだ策定していない会社へ
TDB 山口県版の調査(2026年7月13日公表・調査は2026年5月18〜31日)では、山口県の策定意向ありは44.4%でした。全国の50.5%を下回っています。これは「策定済み・策定中・検討中」の合計であり、策定済みの率ではありません。
44.4%は回答115社の割合であり、県内全企業の推計ではありません。
全国の策定率は21.4%です。未策定の理由の上位は「スキル」「人材」「時間」の不足。意識ではなく、資源の問題です。
国の事業継続力強化計画(ジギョケイ)の県内累計認定は、1,000件を超えています(令和8年7月末時点)。
「復旧まで2年3か月」の側に、あなたの取引先が1社でもあったら、どうしますか。
策定済みだが動かしていない会社へ
山口県中小企業団体中央会は「BCPは策定後に運用と見直しを繰り返して精度を高めるもの」と案内しています。県内の支援機関自身が、「作って終わり」を戒めています。
3つ、点検してみてください。
- 代替輸送は「別の道路」で終わっていませんか。港、荷役、受入、保管、検収、入金まで書いてありますか。
- 瀬戸内側が止まったときに日本海側を、山陰側が止まったときに山陽側を使う手順は決めてありますか。
- 交通と物流の停止が長期化した場合や、輸送手段が恒久的に変わる場合の切替の判断基準はありますか。
山口県の支援・制度
山口県「山口県の地震・津波対策」ページには、新しい被害想定と津波浸水想定図(瀬戸内海沿岸)の一次資料があります。2027年3月末までに活断層と日本海の想定が追加で公表される予定です。公表され次第、自社の住所で再確認してください。
山口県土砂災害ポータルでは、住所別に土砂災害警戒区域を確認できます。
山口県中小企業団体中央会「BCP関係」は、策定・運用・見直しの反復を支援しています。
事業継続力強化計画(ジギョケイ)は経済産業大臣の認定制度で、信用保証枠の拡大、防災・減災投資の税制措置、補助金審査上の加点などがあります。策定の相談先としては、山口県よろず支援拠点と県内各地の商工会議所・商工会があります。
県や市町にも、BCP策定の補助金やセミナーがあります(下関市・周南市・宇部市など)。内容は年度により異なります。
事業継続力強化計画の認定や、補助金・融資などの可否は、各制度の要件と審査によります。BCP-AIで作成した計画がそれらを保証するものではありません。本ページの認定件数は、BCPを策定した企業の割合や利用者数とは別の数値です。
まず、自社と主要取引先の住所を、県の新しい津波浸水想定図と土砂災害ポータルに重ねることから。
BCP-AIは、所在地や業種などの質問に答えるだけで、自社のBCP(事業継続計画)の初版を作成できます。完璧な計画ではなく、連絡先・休業の判断・代替経路の3点からで十分です。
山口のリスク地図は、2027年3月末までにもう一度変わります(活断層と日本海の想定の公表)。新しい想定が出たら作り直す——それを前提に、いま最初の1枚を作っておいてください。