2022年9月24日、清水の蛇口から水が出なくなった。最大6万3,000戸。止まったのは、家庭だけではなかった。
静岡県のBCP(事業継続計画)── 県内の災害リスクと、建物が無事でも事業が止まる経路を確かめるページです。
2022年9月23日の夜から24日にかけて、台風15号が静岡県の中西部に猛烈な雨をもたらしました。
興津川から取水できなくなった清水区では、最大6万3,000戸が断水。県の第13報(9月27日8時時点)には、床上浸水2,759棟、静岡市19地区577世帯などの孤立、携帯電話が利用しづらい地域の発生、大井川鉄道の運休、当面の通行止めが見込まれる国道・県道15路線が報告されています。
県企業局は工業用水道から浄水場へ水を回し、工業用水を住民向けにも提供しました。生産のための水が、生活のための水に振り向けられました。
浸水しなかった会社でも、水がなければ洗浄も冷却もトイレも動きません。従業員は来られず、荷物は出せません。
そして県の最大クラスの想定(第4次・レベル2)では、地震のときの断水は約358万人。上水道の95%復旧までは約5週間で、電力の約1週間よりはるかに長いのです。
静岡の事業継続は「建物が無事かどうか」ではなく、「水・道路・電気・通信がバラバラの時期に戻る間、何を続けて何を止めるか」から始まります。
リスクは「住所と経路」で見る
沿岸の津波、内陸の断水、富士山麓の降灰、浜岡地域の避難圏。同じ県でも、止まる理由は住所ごとに違います。
静岡県は第4次地震被害想定で市町別の震度と津波浸水を公開しており、県のGISで確認できます。
必要なのは県平均の危機感ではありません。自社・倉庫・従業員宅・配送経路の住所で確かめることです。
そして静岡には、地震・豪雨に加えて富士山の噴火と浜岡地域の避難計画という「所在地によって重なる追加の制約」を持つ拠点があります。リスクカードは4枚ではなく、5枚必要な県です。
カード1: 地震・津波 —— 「避難の早さ」を先に決める
第4次想定のレベル2の最大ケースでは、全壊・焼失が約30万棟。この想定では約10万5,000人(うち津波が約9万6,000人)の方が亡くなるとされています。前提は陸側ケース・冬深夜・早期避難率が低い・予知なしという組み合わせです。
一方で県は、全員が発災後すぐに避難を始め、津波避難ビルが有効に活用された場合、死者数がほぼ半減すると推計しています。
沿岸の拠点では、作業の継続より先に、迷わず避難できる状態にあるかどうかが決定的です。
東部・伊豆では、南海トラフだけでなく相模トラフ沿いの地震による揺れと浸水も確認してください。
県内の主要活断層帯(国の長期評価)
地震調査研究推進本部は、主要活断層帯で起こる地震の発生確率を相対的な高さで区分しています。県内では、次の活動区間が最も高い区分(Sランク)にあります(2026年1月1日算定)。
- 塩沢断層帯(マグニチュード6.8程度以上)
- 富士川河口断層帯(同8.0程度)
この区分は、発生時期や個々の事業所の被害を予測するものではありません。国の評価の区分は、被害の大きさを意味しません。区分が低い断層でも地震は起こり、国は「ランク分けに関わらず、どの場所でも強い揺れに見舞われるおそれがある」と注記しています。自社の所在地と断層帯の位置関係は、県の被害想定と国のハザードマップで確かめてください。
断層の評価は定性表現で示しています。国(地震調査研究推進本部)は今後30年以内の地震発生確率が3%以上を「Sランク」と表記し、地震後経過率(前回の活動からの経過時間を平均活動間隔で割った値)が0.7以上の活断層には、ランクに「*」を付記しています。同じ表に載る木曽山脈西縁断層帯 主部(南部)は長野県、阿寺断層帯 主部(北部)は岐阜県に位置するため除いています。出典: 地震調査研究推進本部「静岡県の地震活動の特徴」(2026年1月1日算定)/同「今までに公表した活断層及び海溝型地震の長期評価結果一覧」(令和8年1月14日現在)注3
自社で確認すること: 事業所と従業員宅の震度・浸水深を、県平均ではなく住所で。
カード2: ライフライン —— 「電気が戻っても、水は戻らない」
レベル2の基本ケースで、発災直後の断水は約358.4万人、停電は約200.1万軒。
95%復旧までの日数は、電力が約1週間、固定電話が約2週間に対し、上水道と下水道は約5週間です。
復旧予定日を一つ決めるのではありません。「電気だけ戻った週」と「水がない5週間」に何ができるかを、先に決めてください。
自社で確認すること: 水を使う工程を止める基準と、代替水の用途。
カード3: 豪雨・洪水・土砂 —— 台風15号が示した「水・道路・人」の同時停止
2022年の台風15号では、床上浸水2,759棟、断水は最大6.3万戸、孤立577世帯、携帯電話が利用しづらい地域、大井川鉄道の運休、15路線の通行止めが発生しました(第13報)。
水害を「浸かった会社だけの問題」にしないでください。
警報が出てからではなく、雨が積み上がる前からの前倒し出荷と休業の判断が要ります。
自社で確認すること: ハザードマップポータルと市町のマップで、住所別に。
カード4: 富士山の噴火 —— 「直接影響の拠点」と「降灰の拠点」を分ける
富士山ハザードマップは2021年3月に改定され、溶岩流、火砕流、火砕サージ、融雪型泥流、大きな噴石、降灰、降灰後土石流の各マップが公開されています。
富士山麓・東部の拠点は、到達の範囲と時間を住所で確認してください。
そして富士山から離れた拠点も、無関係ではありません。 降灰による交通と物流、空調と機械、屋外作業、電気と通信への影響を確認してください。
自社で確認すること: 降灰の想定範囲に、代替拠点と配送経路が入っていないか。
カード5: 浜岡地域 —— まず「対象かどうか」から
県は御前崎市、牧之原市、菊川市、掛川市、袋井市、磐田市、森町、島田市、藤枝市、焼津市、吉田町とともに、浜岡地域原子力災害広域避難計画を整備しています(2026年8月修正)。
この対応をBCPに丸ごと書き足す必要はありません。 確認するのは2問だけです。
- 事業所・従業員宅・通勤経路が、対象地域に入っているか。
- 広域避難と道路規制のとき、誰が出勤できず、どの業務が止まるか。
自社で確認すること: 上の2問。対象外なら、ここで終わりです。
自社が無傷でも、事業は止まる
1. 水と道路で止まった —— 2022年・台風15号
清水区の断水6.3万戸は、「浸水した建物」の数ではありません。
断水の地域では、浸からなかった事業所でも、洗浄・冷却・衛生・トイレが使えなくなります。 孤立した集落と通行止めの15路線は、無傷の会社の従業員と配送を止めています。
県企業局が工業用水を浄水場と住民向けに回したことは、生産の条件である水が、災害のときには公共の対応に左右されることを示しました。
水を使う工程を止める基準、代替水の用途、再開の前の洗浄と検査の手順。 これらを「復旧した後に考える」のではなく、初動の判断項目として決めておいてください。
2. 災害が来なくても、動きが変わった —— 2024年8月・南海トラフ地震臨時情報
2024年8月8日、日向灘のM7.1を受けて、初めての臨時情報(巨大地震注意)が発表されました。静岡県は全域が南海トラフ地震防災対策推進地域です。
静岡には、ここに制度の接点があります。津波浸水想定30センチ以上の地域に立地する一定の事業者には、避難場所などを定めた対策計画の作成・届出が義務づけられており、2019年の国の基本計画の改定で、臨時情報が発表されたときの対応を計画に盛り込むことになっています。
臨時情報への備えは、静岡の沿岸事業者にとって任意ではなく、制度上の宿題でもあります。
県は臨時情報のときの県民の行動を5,890人へのアンケートで検証しており、発表の後に水・食料・携帯トイレを買えなかった人が1割前後いました。
臨時情報は、今後も出ます。 次の1週間に営業を続けるか、何を顧客に伝えるか。決めてある会社と、決めていない会社の差は、すでに見えています。
3. 全域停止型の想定 —— 隣も、仕入先も、同時に被災する
「自社の住所は浸水域の外だから大丈夫」は、水・電気・道路には通用しません。
南海トラフは静岡単独ではありません。愛知・三重から四国・九州までの同時被災です。県外の仕入先・出荷先・物流拠点も同時に止まる前提で、優先納品・受注停止・代替調達を決めておいてください。
静岡県の従業者は製造業が43万8,037人で最も多く、全体の25.5%を占めます。部品・用水・品質・物流のどれか一つが欠けても止まる産業群です。
二つの問いかけ
作ったきり・足踏みしている会社へ
50人以上は74.8%。49人以下は39.8%——そして前回から下がりました。
県の調査の従業員規模別を前回と比べると、50人以上は66.5%から74.8%へ(+8.3ポイント)と伸びた一方、49人以下は40.3%から39.8%へ(-0.5ポイント)。
静岡のBCPの課題は「意識の低さ」だけでは説明できません。小規模企業の人手・時間・ノウハウの不足が、数字に表れています。
なお別の調査もあります。帝国データバンクの東海4県調査(2026年)で、静岡県の策定率は29.3%です。全国では、大企業の39.9%に対し、中小企業は18.3%です。
県の調査(第2次産業が中心・広い定義)とTDB(全国企業調査・策定済みのみ)は、母集団も定義も違います。同じ文脈で直接は比べられません。
そして「策定済み」の中身への問いです。県の想定では、水の復旧は電力より4週間長いのです。 「電気が戻ったら再開」とだけ書いてある計画は、静岡ではもう一段の作り込みが要ります。
台風15号の夜、計画を開いた会社はどれだけあったでしょうか。
まだ作っていない会社へ
県の調査に回答した企業の5割超が、もう動き始めています。
県の令和7年度調査(9回目・527社が回答)で、県の定義によるBCP策定率は56.9%(前回比+4.3ポイント)。
TDBの2026年の全国調査でも、静岡の「策定意向あり」(策定済み・策定中・検討中の合計)は58.3%で、全国の50.5%を7.8ポイント上回ります。
TDBの調査は全国の企業を対象とした標本調査で、県別の値は回答した企業の集計です。県内の全企業の推計ではありません。
それでも未策定にとどまる理由は、県の調査でノウハウ・スキル不足47.4%、人手不足44.3%でした。TDBの全国調査の未策定理由(スキル・人材・時間)と、同じ構造です。
最初の一歩として、BCP-AIで初版を作るところから始められます。
制度と身近な相談先
静岡には、2006年からの支援の蓄積があります。
静岡県は2006年(平成18年)2月、都道府県として全国に先駆けてBCPのモデルプランを策定しました。現行は第4版(2023年10月)で、風水害・感染症・サイバー等のマルチハザード対応と、BCM(平常時の運用)まで拡張されています。入門編フォーマット(2019年)は、「まず1枚から」の入口として使えます。 この取組は2009年にBCAOアワード2008特別賞を受賞しました。
| リソース | 内容 |
|---|---|
| BCP策定セミナー | アーカイブ動画があります |
| 専門家派遣制度 | 策定と見直しの個別支援です |
| 静岡県BCP研究会 | 企業・大学・行政の交流の場です |
| 防災・減災強化資金 | 中小企業向けの制度融資です。条件は年度により異なります |
| 事業継続力強化計画 | 国(中小企業庁)の認定制度。静岡県の累計認定は4,900件を超えています(うち連携型が30件を超えています。2026年8月末時点) |
沿岸の事業者には、制度上の宿題があります。 津波浸水想定30センチ以上の地域の一定の事業者には対策計画の作成・届出の義務があり、臨時情報が発表されたときの対応も計画に盛り込むことになっています。
義務への対応とBCPを別々に作らないでください。同じ初動の判断として揃えます。
BCP-AIで作った初版を持って、商工会・商工会議所や県の専門家派遣、よろず支援拠点に相談することもできます。
事業継続力強化計画の認定や、補助金・融資などの可否は、各制度の要件と審査によります。BCP-AIで作成した計画がそれらを保証するものではありません。本ページの認定件数は、BCPを策定した企業の割合や利用者数とは別の数値です。
蛇口が止まる前に、決めておく。
BCP-AIは、所在地や業種などの質問に答えるだけで、自社のBCP(事業継続計画)の初版を作成できます。
電気だけ戻った週に何をするか。水がない5週間に何を止めるか。決めておけるのは、止まる前だけです。