2026年3月30日、三重県は南海トラフ地震の被害想定を書き換えた。変わったのは数字より先に、「前提」だった。

三重県のBCP(事業継続計画)── 県内の災害リスクと、建物が無事でも事業が止まる経路を確かめるページです。

2026年3月30日、三重県は南海トラフ地震の新しい被害想定を、前回の想定から10年余を経て公表しました。国が2025年3月に示した想定より厳しい結果になった理由は、前提の置き方にあります。県は、海岸と河川の堤防が揺れで損傷して機能しない条件を置き、避難する人の年齢や属性、地形ごとに避難にかかる時間の違いまで織り込みました。志摩半島の沿岸では、最大26mの津波を予測しています。

この10年余で、津波避難タワーの整備や耐震化は進みました。それでも知事は「思ったほど被害が減っていない」と述べています。その間の対策が進んだうえで、なお前提を厳しく置いた。そういう誠実さの表れです。

同じ地震でも、前提の置き方で結果は変わります。これは県の想定だけの話ではありません。「建物は無事」「電気はすぐ戻る」「取引先は動いている」という楽観の前提で作られた——あるいは作られていない——事業の備えは、堤防が機能しない日に機能しません。県は、前提を置き直すことで対策の順番を決め直しました。会社も、同じことができます。

被害の大きさは、事前に何を決めてあるかで変わります。

そして三重には、津波とは別の停止経路があります。北勢の製造業の読者は、次のセクションから読んでください。

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「三重県は南海トラフが心配」では、何も決められない

三重の災害リスクは、一枚岩ではありません。伊勢湾沿岸の工業・物流地帯には地震、液状化、高潮、港湾の停止が。東紀州と山間部には豪雨、土砂、道路の寸断が。志摩半島以南には最大26mの津波が。それぞれ別の「停止経路」として存在します。県の想定(2026年3月)は市町別の数字まで公開しています。必要なのは県平均の危機感ではなく、自社、倉庫、従業員の自宅、主要取引先の住所で確かめることです。

カード1: 津波・揺れ —— 市町別に見ると景色が変わる

理論上最大クラスの想定(冬の深夜に発生し、すぐに避難する人が2割の場合)では、死者は約5万人(うち津波によるものが約4万1千人)。志摩半島の沿岸で最大26m、南部で10mを超える津波が予測されています。同じ想定は、全員が地震の直後に避難すれば津波による死者は約9,400人まで減る、とも示しています。BCPの最初のページは「操業再開」ではなく、「誰の判断で、いつ、どこへ避難するか」です。

同じ理論上最大クラス(冬の夕方に発生した場合)で、全壊・焼失は約22万2千棟。市町別では、伊勢市が約3.4万棟、津市が約3.1万棟、松阪市と四日市市が各約2.5万棟、志摩市が約1.5万棟、紀北町が約1万棟。県庁所在地も、工業都市も、上位に入ります。

これらは2026年3月公表、理論上最大クラス、一定条件下の推計です。規模感をつかむ上限のシナリオとして受け止め、自社の住所で確認してください。

県内の主要活断層帯(国の長期評価)

地震調査研究推進本部は、主要活断層帯で起こる地震の発生確率を相対的な高さで区分しています。県内では、次の活動区間が最も高い区分(Sランク)にあります(2026年1月1日算定)。

この区分は、発生時期や個々の事業所の被害を予測するものではありません。国の評価の区分は、被害の大きさを意味しません。区分が低い断層でも地震は起こり、国は「ランク分けに関わらず、どの場所でも強い揺れに見舞われるおそれがある」と注記しています。自社の所在地と断層帯の位置関係は、県の被害想定と国のハザードマップで確かめてください。

断層の評価は定性表現で示しています。国(地震調査研究推進本部)は今後30年以内の地震発生確率が3%以上を「Sランク」と表記し、地震後経過率(前回の活動からの経過時間を平均活動間隔で割った値)が0.7以上の活断層には、ランクに「*」を付記しています。同じ表に載る阿寺断層帯 主部(北部)は岐阜県、浦底-柳ヶ瀬山断層帯は福井県・滋賀県、京都盆地-奈良盆地断層帯 南部区間は京都府・奈良県に位置するため除いています。出典: 地震調査研究推進本部「三重県の地震活動の特徴」(2026年1月1日算定)/同「今までに公表した活断層及び海溝型地震の長期評価結果一覧」(令和8年1月14日現在)注3

カード2: 高潮・液状化 —— 伊勢湾岸の工業・物流地帯を狙い撃つ

県は、伊勢湾沿岸と熊野灘沿岸の高潮浸水想定区域図を公開しています。倉庫の床面だけでなく、受変電設備、車両、危険物、冷蔵設備、搬入口の高さで見てください。

液状化の危険度が極めて高い範囲は、堆積物の厚い伊勢平野の低地と埋立地に集中しています。四日市港と津松阪港の物流、設備の基礎、配管、岸壁に直結します。

もう一つの盲点があります。南海トラフだけではありません。養老-桑名-四日市断層帯の直下地震では北勢の大半で震度6強以上、布引山地東縁断層帯では北勢から中勢の伊勢湾沿岸部で震度6強以上が想定されています。

カード3: 豪雨・土砂・道路寸断 —— 東紀州は「届かなくなる」型

2011年の紀伊半島大水害(台風12号)では、県内で全壊81棟、半壊1,077棟、床上浸水702棟、床下浸水832棟の被害が出ました。紀宝町では、ボート、ヘリ、徒歩での救出が行われました。県内の断水がすべて復旧したのは、9月16日の夜。建物の被害が終わっても、水と道路の停止は続きました。

東紀州と山間部の事業停止は、「自社の損壊」より先に、「従業員、部材、配送、修理業者が到達できない」形で来ます。通勤、配送、仕入の主要経路と代替経路、そして数日単位の水、燃料、在庫で備えてください。

カード4: 全域同時停止 —— 「自社の住所は無事」を無効にする前提

南海トラフでは、電力、水、通信、道路、港湾が広域で同時に止まります。三重単独ではなく、愛知、和歌山、静岡など隣接圏との同時被災であり、県外の仕入先、出荷先、物流拠点も同時に止まる前提を置いてください。

「浸水域の外だから大丈夫」ではなく、「浸水域の外でも、水、電気、道路、取引先が止まる」を、確認の起点にしてください。

ハザードマップ: みえ防災ナビ/三重県 高潮浸水想定区域図/三重県 南海トラフ地震被害想定(市町別資料)/国土交通省ハザードマップポータル

三重はもう、「災害が来なくても止まる」を経験している

AIで生成したイメージ画像。貯蔵タンクと岸壁が並ぶ臨海工業地帯の空撮。
AIで生成したイメージ画像です(実在の風景ではありません)。

災害が来なくても止まった。そして、止まらなかった事業者もいた —— 2024年8月、臨時情報

2024年8月8日、日向灘のM7.1を受けて、南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)が発表されました。三重県内に地震の被害はありませんでした。しかし、お盆を直撃した1週間で、各地で旅行やイベントの中止、海水浴場の閉鎖といった影響が出ました。地震が来なくても、情報ひとつで、無傷の宿や施設の売上が止まる。

一方で、県と協議のうえ、避難経路、スタッフの配置、場内のアナウンス、高台への誘導看板まで整えて、営業を続けた海水浴場もありました。同じ1週間、同じ県内で、閉めた事業者と開けた事業者を分けたのは、被害の有無ではなく、「事前に決めてあったかどうか」でした。

臨時情報は、今後も出ます。次の1週間に「営業を続けるか、何を整えれば続けられるか、顧客に何を伝えるか」を決めてある会社と、決めていない会社の差は、三重ではすでに実例として見えています。

道路と水が止まれば、建物が無事でも営業できない —— 2011年、紀伊半島大水害

浸水と土砂だけでなく、道路規制、通信、断水が連鎖しました。県内の断水がすべて復旧したのは9月16日の夜。紀宝町ではボートとヘリでの救出が行われ、従業員が「出勤する」という前提そのものが崩れました。

東紀州の物流と通勤は、限られた幹線に依存しています。BCPには「出勤の前提を外した初動」「休業・在宅・分散稼働の判断基準」「取引先への連絡順」まで書いてください。売上より先に来るのは、資金繰りの問題です。固定費、借入、保険、支援制度の確認の担当と必要書類を、平時に決めておく。

取引先が止まれば、自社が止まる —— 製造品出荷額10兆円の県の構造

三重の製造業は、製造品出荷額等が約10兆5千億円(2020年・従業者4人以上の事業所)。北勢と中勢は、自動車、半導体、石油化学、物流の集積地で、部品、工業用水、電力、港湾、品質承認のどれか一つが止まれば、生産と納品が止まります。仕入先、販売先、物流会社、ライフラインのそれぞれについて、「どれが止まると、自社の何が何日で止まるか」を先に確認してください。

そしてもう一つの構造があります。取引先の大手が事業継続計画を持ち、取引先にも同じ備えを求める時代に、「うちは小さいから」は、取引先から見た評価の話でもあります。

二つの問いかけ

「作りたい」は全国並み。「作れた」は、まだ全国平均に届かない

帝国データバンクの2026年調査で、三重県のBCP策定率は15.8%。全国平均の21.4%を下回り、未策定は39.5%です。一方で「策定意向あり」(策定済み、策定中、検討中の合計)は50.9%と、全国平均の50.5%並み。必要だと思っている企業の数は全国並みなのに、形にできた企業が少ない。それが三重の現在地です。参考までに、同じ2026年調査の東海4県の値は、愛知22.2%、岐阜23.2%、静岡29.3%、4県計23.6%です。

策定していない理由は、全国調査で「スキル・ノウハウがない」42.2%、「人材を確保できない」33.5%、「時間を確保できない」28.1%。災害リスクを軽く見ているからではなく、経営資源の構造的な不足です。

最初の一歩として、BCP-AIで初版を作るところから始められます。2026年3月の新想定で「前提の置き直し」が県全体の議題になっている今は、着手の合図でもあります。

三重県の数値は回答114社の割合であり、県内全企業の推計ではありません。

2026年3月30日以降、あなたの計画の「前提」は古くなっていないか

前回の想定から10年余を経た新想定は、堤防の機能喪失、避難者の高齢化、地形別の避難時間まで、前提を置き直しました。平成25年度の想定を前提に作った計画は、浸水深、避難先、想定震度の前提から見直しの対象になります。

その計画、最後に開いたのはいつですか。臨時情報の夜、開きましたか。新想定の発表後、前提を確かめましたか。

三重には、県と大学が一緒に作った「書き込むだけのBCP」がある

三重県中小企業BCPモデル。県が三重大学(みえ防災・減災センター)と連携して作成しました。記入箇所を最小限にしたチェック方式・選択方式で、「入門編」「標準編」と「製造業向け」「商業・サービス業向け」の組み合わせがあります。みえ企業等防災ネットワークで無償公開されています。

みえ企業等防災ネットワーク。県と三重大学みえ防災・減災センターを軸とする、企業防災の地域ネットワークです。加入と情報提供の窓口があります。

事業継続力強化計画(ジギョケイ)の入口。県は事業継続力強化計画を「簡易なBCP」と位置づけ、策定の流れ、記入例、企業事例と個別相談会を組み合わせたセミナーを実施しています。県(中小企業・サービス産業振興課)、商工会議所・商工会、中央会、県産業支援センター、中小機構中部本部が連携しています。三重県内の累計認定は3,000件を超えています(令和8年7月末時点)。認定件数はBCP策定率とは別の指標です。

資金面。三重県は、事業継続力強化計画に基づく耐震補強や設備の転倒防止といった対策を支援する「防災・減災対策融資」を設けています。(融資の条件は年度により異なります)

BCP-AIで作った初版を持って、商工会・商工会議所や県のセミナー、よろず支援拠点に相談することもできます。

事業継続力強化計画の認定や、補助金・融資などの可否は、各制度の要件と審査によります。BCP-AIで作成した計画がそれらを保証するものではありません。本ページの認定件数は、BCPを策定した企業の割合や利用者数とは別の数値です。

AIで生成したイメージ画像。入り江の漁村と岩礁の海岸を縫う道路。
AIで生成したイメージ画像です(実在の風景ではありません)。

新しい想定が出た年に、最初の草案を。

BCP-AIは、所在地や業種などの質問に答えるだけで、自社のBCP(事業継続計画)の初版を作成できます。

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