あの1週間、建物は無傷だった。売上だけが止まった。
高知県のBCP(事業継続計画)── 県内の災害リスクと、建物が無事でも事業が止まる経路を確かめるページです。
2024年8月、南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)の7日間に、高知で起きたこと。
2024年8月8日、午後4時43分。日向灘でマグニチュード7.1の地震が発生し、同じ日の午後7時15分、気象庁は「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表しました。高知県内の建物被害は、ごく限定的でした。
しかし翌日から、宿泊予約の取り消しが相次ぎました。県旅館ホテル生活衛生同業組合の調査では、発表から10日間で県内82施設・少なくとも1万2,000人超がキャンセル。8月15日時点の集計では70施設・9,400人超で、売上の損失は約1億4,300万円でした。政府の特別な呼びかけは8月15日の午後5時に終了しましたが、9月以降の予約にも影響が残りました。
組合加盟施設の回答分であり、県内全施設の集計ではありません。
「本番」ではなかったあの1週間ですら、事業は止まりました。次に来るのは、情報ではなく地震そのものかもしれません。県の2025年度被害想定(最大クラス)では、断水63.3万人、停電44.1万軒、避難者43万人。建物が残っても、水、電気、道路、客足が戻らなければ、仕事は再開できない。高知の事業継続は、その前提から始まります。
「高知県は津波が危ない」では、何も決められない
高知県は、市町村ごとの津波浸水予測図と到達時間図を、東洋町から宿毛市まで沿岸全域で公開しています。必要なのは県平均の危機感ではなく、自社、倉庫、従業員の集合場所の住所で「浸水深、到達時間、徒歩での避難先」を確かめること。そして高知では、津波だけ見ても足りません。雨と山と橋が、もう一組のリスクを作ります。
カード1: 津波 —— 「到達時間」まで見る
県の最大クラス(L2)の想定では、津波からの早期避難率が73%なら死者は2.3万人、20%に低下すれば4万人と推計されています。
高知市、安芸市、須崎市、四万十市、黒潮町、土佐清水市など、市町村別の浸水予測図と到達時間図が公開されています。自社の住所で確認してください。
想定は2025年度版(2026年3月公表)で、現状の耐震化率と避難意識を前提にした「規模感をつかむ上限のシナリオ」です。対策で大幅に減らせると、県自身が明記しています。
カード2: 揺れ・断水・停電 —— 全域が同時に止まる型
断水は63.3万人(断水率100%)、停電は44.1万軒(停電率97%)、下水道の支障は30.3万人。県の想定では、内陸でも、浸水域の外でも、水と電気は止まります。止まると想定して備えてください。「自社の住所は浸水域の外だから大丈夫」は、この数字が否定します。
カード3: 豪雨・土砂 —— 年間2,000mmの県で「雨は積み上がる」
県内の大半で年間の降水量が2,000mmを超え、一部では3,000mmを超えます。土砂災害警戒区域は20,014(うち特別警戒区域18,581。急傾斜地13,862、土石流5,833、地すべり319)。
1975年の台風5号・6号では32,298棟が浸水し、1998年9月の豪雨では17,253棟が浸水しました。2014年の台風11号(安芸市付近に上陸)では、総降水量が1,000mmを超えた地点もあります。
警報が出てからではなく、雨が積み上がる数日前からの前倒し出荷と休業判断。それが高知の実務です。
カード4: 孤立 —— 橋が1本落ちるだけで
2001年の高知県西南豪雨では、土佐清水市で橋の崩壊により8地区が孤立しました(227世帯322人)。施設の被害は667か所、被害額は約101.6億円。南海トラフの想定でも、農業集落353、漁業集落29の孤立が推計されています。
自社、従業員、仕入先が、どの橋、どの道路1本に依存しているか。経路で見てください。
ハザードマップ: 高知県防災マップ/高知県そなえポータル 市町村別津波浸水予測図・到達時間図
高知はもう、「無傷でも止まる」を経験している
災害が来なくても止まった —— 2024年8月、臨時情報
建物も、設備も、従業員も、すべて無事でした。止まったのは、客足と予約です。高知市の老舗旅館では発表当日の夕方から取消の電話が鳴りやまず、1施設で500人分に達した例も報道されています。
BCPは「被災したら」の計画ではありません。取引先、顧客、世間の行動が変わるだけで、売上は止まります。臨時情報は、今後も出ます(発表基準は常設の制度です)。次の臨時情報の1週間に「営業を続けるか、何を伝えるか、キャンセル対応をどうするか」を決めてある会社と、決めていない会社の差は、すでに見えています。
キャンセルを被った事業者に、備えが足りなかったのではありません。臨時情報は誰にとっても初体験でした。高知全体が、予行演習を経験したのです。
道路が止まれば、建物が無事でも操業できない —— 2001年・2014年
2001年の西南豪雨では、橋1本の崩壊で8地区が孤立しました。店も工場も無事でも、従業員は来られず、商品は出せない。2014年の台風11号では、上陸前からの長期の降雨で県内の広域が浸水・寸断し、高知市、大豊町、四万十町に災害救助法が適用されました。
高知では、建物の被害の有無とは別に、橋梁と道路の寸断が地区単位の孤立を生みます。経営者、従業員、重要在庫、主要仕入先が「どの道路、どの橋に依存しているか」を、経路で確認しておく必要があります。
全域停止型の想定と、すでに動いている高知の企業
断水率100%、停電率97%という県の想定は、「無事な自社」に水も電気も来ないことを意味します。さらに南海トラフは高知単独ではなく、四国4県、紀伊、東海の同時被災です。県外の仕入先、出荷先、物流拠点も同時に止まる前提を置いてください。
県の令和6年度事業者アンケート(従業員30名以上の団体が対象・411団体回答)では、本社が使えない場合の代替拠点を「選定済み」は45.1%(1拠点29.0%、複数16.1%)にとどまり、「選定予定なし」が36.3%で最多でした。計画を持つ会社が多い県でも、「自社拠点が使えない」事態への備えは、まだ半分です。
一方で、すでに動いている企業の姿も、同じ調査に出ています。代替拠点を選定済みの企業のうち、津波浸水域の外に拠点を置く77.8%、通信・事務機器などオフィス機能を整備66.5%、水・食料・毛布を備蓄59.5%、代替電源を確保51.9%。策定後の見直しを行う企業では、避難や参集などの実動訓練を通じた見直しが60.2%、図上訓練が30.9%。
「無傷でも止まる」に対する答えは、県内にすでに実装例として存在します。高知の企業の半分近くがここまでやっている。その事実で、自社の現在地を測ってください。
二つの問いかけ
策定率全国トップの県で、次に問われるのは「動くかどうか」
帝国データバンクの2024年調査を南海トラフ地震防災対策推進地域の29都府県で再整理すると、高知県の策定済み率33.3%は首位でした(全国平均19.8%)。
県の令和6年度アンケート(従業員30名以上の団体が対象・回答411件、うち9割近くが50名以上)では、策定済みは69.1%。中堅規模では、もはや「持っていない方が少数派」です。
しかし同じ県調査で、代替拠点は「選定予定なし」が36.3%(策定済みが7割の母集団で)。策定後の見直しを「行っている」は67.3%——裏返せば約3社に1社は、見直し未実施か予定のみ。事業継続力強化計画(ジギョケイ)を「知らない」は69.3%。
その計画、最後に開いたのはいつですか。臨時情報の夜、開きましたか。
既存の計画を見直すときは、BCP-AIの再生成機能で初版を作り直せます。
帝国データバンクの調査(全国企業対象)と県アンケート(従業員30名以上の団体・郵送)は母集団が異なります。同一の指標として比較しないでください。
高知の6割は、もう動き始めている
帝国データバンクの2026年調査で、高知県の「策定意向あり」(策定済み、策定中、検討中の合計)は61.7%。全国の50.5%を大きく上回ります。2024年の調査では68.4%で、全国1位でした。
高知県の数値は帝国データバンクの全国調査を都道府県別に集計した回答企業の割合であり、県内全企業の推計ではありません。
それでも未策定にとどまる理由は、県自身の調査(令和6年度・未策定層56社)で「時間的な余裕がない」66.1%、「スキルやノウハウがない」48.2%、「人手を確保できない」42.9%。全国調査の未策定理由(スキル42.2%、人材33.5%、時間28.1%)と同じ構造で、しかも高知では「時間」が最大の壁です。
最初の一歩として、BCP-AIで初版を作るところから始められます。
高知には、15年分の支援の蓄積がある
県の支援は2010年から続く体制。高知県は2010年に、県、高知商工会議所、TKC四国会高知支部、損害保険会社でBCP策定推進プロジェクトを開始し、高知県事業者防災推進協議会として、手引き、訓練マニュアル、認定制度、アンケートを継続しています。
3つの県主催講座(商工業者向け)。ジギョケイ(簡易版BCP)策定講座(委託先: 高知商工会議所)、自然災害BCP策定講座、事業継続訓練講座。超簡易版BCPの様式と机上型訓練マニュアルも無償で公開されています。
認定制度。南海トラフ地震対策優良取組事業所認定制度、高知県建設業BCP認定制度(建設業向け)。
資金面。南海トラフ地震・節電対策融資、民間活力活用津波避難施設整備促進事業費補助金、中小企業耐震診断等支援事業費補助金。いずれも県の事業者向け支援制度ページに掲載されています。(条件は年度により異なります)
ジギョケイ認定の現在地。高知県の累計認定は780件以上(うち連携型18件。令和8年7月末時点)。
市町村×商工会の網。事業継続力強化支援計画(県認定)が、室戸市、黒潮町、土佐市、いの町、南国市、四万十市西土佐、中芸地区、本山町、日高村、春野(高知市)などで整備済みです。沿岸と中山間の地域差を踏まえた、身近な伴走先があります。
BCP-AIで作った初版を持って、商工会・商工会議所や県の講座、よろず支援拠点に相談することもできます。県の講座体系(策定→訓練)の手前に置く使い方です。
事業継続力強化計画の認定や、補助金・融資などの可否は、各制度の要件と審査によります。BCP-AIで作成した計画がそれらを保証するものではありません。本ページの認定件数は、BCPを策定した企業の割合や利用者数とは別の数値です。
次の臨時情報が出る前に、初版を。
BCP-AIは、所在地や業種などの質問に答えるだけで、自社のBCP(事業継続計画)の初版を作成できます。