香川の会社を止めるのは、来る水と、来ない水。
香川県のBCP(事業継続計画)── 県内の災害リスクと、建物が無事でも事業が止まる経路を確かめるページです。
2004年8月30日。台風16号と大潮の満潮が重なり、高松港では観測史上最高の潮位を観測しました。
海水は河川を逆流し、市街地へ広がりました。県全体で床上浸水5,872棟、床下浸水16,088棟。高潮の影響は、台風が通り過ぎた翌日にも残りました。
その10年前。1994年の夏、高松の蛇口から水が出たのは、1日5時間でした。
給水制限は139日間。工業用水の取水は、計画の45.8%まで削られました。建物は無傷のまま、洗浄も、冷却も、調理も止まりました。
早明浦ダムの利水貯留量がゼロになったのは、平成の間だけで3回。1975年の通水以来、取水制限がたびたび行われてきました。
香川は「雨が少ない県」です。しかしそれは「一度に水が来ない県」という意味ではなく、「水が必ず来る県」という意味でもありませんでした。正反対に見える二つの水は、香川の会社に同じ問いを突きつけます。
水が使えない日、あなたの事業は何日もつか。
香川県のリスク
1. 最新の被害想定 —— 2025年9月に県が公表した数字
香川県は2025年7月1日に震度分布と津波浸水想定を、9月2日に物的・人的被害の推計を公表しました。
南海トラフの最大クラスでは、全壊・焼失が約39,000棟(揺れ31,000、液状化3,800、津波3,500、地震火災1,100ほか)。人的被害は2013年の前回想定を上回り、今回初めて災害関連死が推計に含められました。
発災の直後のライフラインは、断水が約77万3,000人(断水率81%)、停電が約56万軒(97%)、通信の不通が約26万回線(98%)、都市ガスの供給停止が約7万8,000戸(100%)。ほぼ全県が同時に止まる想定です。
避難者は発災の1日後までに約27万6,000人。1か月後もなお約23万5,000人が避難を続けているとされています。避難の長期化は、従業員の出勤と取引先の再開に、そのまま跳ね返ります。
そして「南海トラフが来なければ大丈夫」は成り立ちません。 中央構造線断層帯の単独発生でも全壊は約28,000棟、断水は約73万2,000人(77%)、停電は約51万9,000軒(90%)。長尾断層帯でも全壊約4,900棟、断水約34万6,000人です。
一方で、備えは効きます。 全建物の耐震化により、揺れによる全壊は約8分の1に軽減されると県は試算しています。
自社で確認すること: 事業所の住所と従業員の居住地での震度。かがわ防災Webポータルで、県平均ではなく住所単位で。
2. 海面変動は「瀬戸内でも」短時間で始まる
県は、海面が±20センチ変動し始めるまでの時間を港ごとに予測しています。±20センチは、県が「海辺にいる人の人命に影響が出る恐れ」のある海面変動として定めている大きさで、浸水の深さが30センチになる時刻とは別のものです。
| 地点 | 影響の開始 | 企業にとっての意味 |
|---|---|---|
| 引田港 | 10分 | 東讃の港湾・水産・沿岸店舗は、地震の直後に避難を始める基準が要る |
| 坂出港(中央埠頭地区) | 11分 | 番の州の臨海工業・港湾物流は、荷役や設備の確認より避難を優先する |
| 高松港(朝日地区) | 16分 | コンテナ・フェリー・旅客・観光客が混在。滞留者を含む避難計画が要る |
| 観音寺港 | 16分 | 西讃の沿岸製造・食品は、低地と内水を重ねて確認する |
| 多度津港 | 23分 | 夜間・悪天候・停電のとき、誰が避難を誘導するかを決めておく |
「瀬戸内だから津波は大丈夫」で判断しない。これが原則です。
3. 高潮・豪雨・内水 —— 2004年に実際に起きたこと
2004年の台風16号では、高潮により3人の方が亡くなりました。同じ年の台風23号でも、東讃を中心に被害が続きました。心より哀悼の意を表します。
台風16号の浸水は床上5,872棟・床下16,088棟。夜のうちに市街地の広い範囲が浸水しました。
台風23号では最高の総雨量674ミリ、最大60分雨量118ミリを記録し、中小河川の氾濫と堤防の決壊が起きました。床上浸水4,431戸、床下浸水13,336戸。
2011年の台風15号では、引田で803.0ミリ、小豆島町内海で429.0ミリ。島しょ部と東讃は、配送・航路・道路の代替が効きにくい地域です。
自社で確認すること: 満潮の時刻と、水が来る時刻は一致しません。冠水する道路と、そのときの操業停止の判断基準を。
4. 渇水 —— 香川だけの、第三のリスク
香川用水は、年間2億4,700万立方メートルを水道・農業・工業用水として県内へ導いています。早明浦ダムの運用が始まった1975年以来、取水制限はたびたび行われてきました。
利水貯留量がゼロになったのは平成6年・17年・20年の3回です。
1994年は、6月29日に第1次取水制限(30%カット)、7月15日に第3次(香川用水75%カット)、7月24日に早明浦ダムが枯渇して取水停止。高松市は7月11日から夜間断水に入り、7月15日から8月15日までは1日5時間給水(16時〜21時)。給水制限は計139日間に及びました。
同じ年の香川用水の取水量は、計画の65.5%。用途別では工業用水が45.8%、農業用水が59.6%、上水道が83.3%です。生活用水を守るために、企業の水が先に削られました。
2009年3月には、渇水時のバックアップとして香川用水調整池「宝山湖」が完成し、同じ年の夏の渇水で稼働しています。
自社で確認すること: 取水制限が10%・20%・30%と深まる各段階で、どの工程を先に縮小するか。
建物が無事でも、事業は止まる
香川の「無被害停止」は、三つの層で語れます。
1. 渇水 —— 香川だけの停止要因
地震も台風も来ていない夏に、取水制限だけで洗浄・冷却・調理・衛生・排水が細ります。1994年の工業用水45.8%は、災害がゼロの年に企業の水が半分以下になった実績です。
BCPに「非常用電源」はあっても、「非常用の水」と「水を使わない縮小運転の手順」がない計画は、香川で最も香川らしい停止要因を見落としています。
2. 物流と交通が、同時に止まる
港湾(高潮・津波・強風)、フェリー、瀬戸大橋(強風・地震点検)、JR、高速道路。このうち複数が同時に止まります。
香川の港は、本州と四国を結ぶ物流の結節点です。港は貨物だけの場所ではなく、人と島しょ部の生活線でもあります。
自社が無傷でも、港・橋・航路が止まれば、入荷も出荷も観光客も止まります。
3. 高潮の「翌日」
2004年の台風16号では、台風が通過した翌日にも高潮の影響が残りました。「台風が過ぎれば再開できる」とは限りません。
満潮、潮位、道路の冠水、港湾の再開、従業員の通勤。これらを分けて確認する必要があります。
香川のBCPは、防水と節水を同じ表に書きます。多すぎる水と、足りない水は、同じ「操業停止」に行き着くからです。
二つの読者へ
三つの数字は、別のものです
| 何の数字か | 香川県の値 | 読み方 |
|---|---|---|
| 事業継続力強化計画の累計認定 | 1,191件(令和8年7月末日時点) | 国の制度に認定された件数。策定率ではありません |
| BCP策定意向あり | 59.5% | 策定済み・策定中・検討中の合計です(帝国データバンク 四国地区版・2026年7月3日公表・調査は2026年5月18〜31日・香川の有効回答116社) |
| 県の令和6年度調査による策定済み | 33.1% | 香川県商工労働部経営支援課の調査(令和6年9〜10月実施・商工会・商工会議所の会員事業所から抽出した806事業所が回答)による値です |
TDBの調査は全国の企業を対象とした標本調査で、県別の値は回答した企業(香川は116社)の集計です。県内の全企業の推計ではありません。
まだ策定していない会社へ —— 意向は、水を貯めない
香川の策定意向は、全国平均を9.0ポイント上回ります。それでも、意向は水を貯めません。
県の調査の内訳を見ると、従業者50人以下では27.0%、101人以上では51.7%。会社が小さいほど、計画は遠くにあります。 業種別では製造40.8%・建設41.6%に対し、卸売・小売23.9%、サービス業16.3%です。
着手できない理由の上位は、県の調査でも全国の調査でも「時間」「スキル」「人材」の不足でした。危機感の欠如ではなく、実装の壁です。
だから、最初の一歩を組み替えます。厚い文書より先に、人(安否・判断者)/水・電気/客/仕入れと物流/お金と情報の5つを一枚で決める。
香川版は、「水」を電気と並べた独立の項目にします。ここが全国版と違うところです。
計画はあるが動かない会社へ —— そのBCPに、渇水の章はあるか
地震と台風だけのBCPは、香川では半分しかカバーしていません。
3つだけ、点検してみてください。
- 渇水 —— 取水制限が10%・20%・30%と深まる各段階で、どの工程やサービスを先に縮小するか決めてありますか。
- 人命と設備の役割分担 —— 津波・高潮のときに「設備を守りに戻らない」基準が、明文になっていますか。
- 代替の二重の断絶 —— 港・橋・航路のうち二つが同時に止まる前提で、在庫日数と代替経路を見直したのはいつですか。
県のBCP優良取組事業所認定は更新制です。直近の認定事業所の多くが、更新2回目・3回目の事業所です。「作る」より「見直し続ける」ことを、県自身が制度で求めています。 認定の基準は、そのまま自社の点検表として使えます。
香川県の支援リソース
| リソース | 内容 |
|---|---|
| 香川県BCP優良取組事業所認定制度 | 自社の取組に加え、取引先・地域との連携を認定の要件にしています。2026年度から大企業にも対象が広がりました。更新制です |
| 香川県中小企業BCP取組指針 | 県独自の策定指針です |
| 事業継続力強化計画 | 国(中小企業庁)の認定制度。県内の累計認定は1,191件です(令和8年7月末日時点)。防災投資、金融支援、取引先への説明に使えます |
| かがわ防災Webポータル/県の地震・津波被害想定 | 事業所・倉庫・駐車場・配送先を、住所単位で個別に重ねられます |
| 県「過去の水害実績」・市町のハザードマップ | 高潮・内水・河川・土砂を、それぞれ別に確認します。2004年の実災害は訓練シナリオの素材になります |
| 水資源機構「香川用水」・県の水資源資料・宝山湖 | 取水制限の仕組みと歴史、渇水時のバックアップ。渇水条項を書くときの一次資料です |
| 商工会・商工会議所 | 県調査の母集団でもある、身近な相談窓口です |
帝国データバンク 四国地区版の調査(2026年7月3日公表・調査は2026年5月18〜31日・香川の有効回答116社)では、策定していると答えた企業は25.9%でした。これも回答企業の割合であり、県内の全企業の推計ではありません。
事業継続力強化計画の認定や、補助金・融資などの可否は、各制度の要件と審査によります。BCP-AIで作成した計画がそれらを保証するものではありません。本ページの認定件数は、BCPを策定した企業の割合や利用者数とは別の数値です。
高潮の防水と、渇水の節水を、同じ計画に。
来る水と、来ない水。香川の会社が備えるべき水は、二つあります。
BCP-AIは、所在地や業種などの質問に答えるだけで、自社のBCP(事業継続計画)の初版を作成できます。
全建物の耐震化で、揺れによる全壊は約8分の1に。備えは、無駄になりません。