経験は、いちばん正確なBCPの教材になる。文書になっていれば。
石川県のBCP(事業継続計画)── 県内の災害リスクと、建物が無事でも事業が止まる経路を確かめるページです。
2024年、石川の事業者は教科書に載っていないことを学んだ。その経験を、計画の形に。
2024年1月1日、午後4時10分。マグニチュード7.6。県が管理する道路など87か所が通行止めになり、33の地区で最大3,345人が孤立し、水道は能登から金沢近郊まで広い範囲で止まりました。そして9月、雨が、復旧の途上にあった奥能登を再び止めました。
幹線道路の約9割は、1月15日までに通れるようになりました。しかし取引も、雇用も、観光も、工芸も、漁も、同じ速さでは戻らなかった。この県の事業者は、それを身をもって知っています。あの時どう動いたか。安否確認の順番、水の工面、取引先への連絡、再開の判断。それは、どの教科書よりも正確な教材です。
ただし経験は、時間とともに、人の異動とともに薄れていきます。経験を「次に動ける計画」に変えること。それが、いま石川でBCPをつくる意味です。
起きたことの構造は、次の災害にも当てはまる
これから起こりうる災害の話より先に、起きたことの構造を置きます。その構造は、次の災害にもそのまま当てはまるからです。
複合被害の構造
| 何が起きたか | 実績 | 出典 |
|---|---|---|
| 揺れ | M7.6。輪島市・志賀町で最大震度7 | 気象庁 |
| 津波 | 能登町・珠洲市で浸水高4m超 | 水産庁 |
| 地盤隆起 | 最大約4m。漁港の泊地・航路の水深が変わり、出港も接岸もできなくなった | 水産庁 |
| 道路 | 87か所が通行止め。33地区で最大3,345人が孤立 | 内閣府 防災白書 |
| 土砂 | 地震による土砂災害のうち石川県で424件。河道閉塞など14か所 | 内閣府 防災白書 |
| ライフライン | 最大約4万戸が停電。断水は七尾市約2万1,800戸、津幡町約1万5,000戸、内灘町約1万2,000戸など、能登から金沢近郊まで広がりました。水道本管の復旧は、建物倒壊地域などを除き2024年5月末 | 経済産業省・国土交通省・内閣府 防災白書 |
| 通信 | 被害の大きい6市町で、通信できるエリアが被災前の約30%まで低下 | 内閣府 防災白書 |
| 市街地火災 | 輪島市河井町で約240棟、約49,000㎡が焼失 | 消防庁 調査報告 |
再被災 —— 傷んだ基盤は、次の雨で再び止まる
2024年9月の奥能登豪雨では、新たに273件の土砂災害が起き、国道249号や県管理道路48か所が再び通行止めになりました。輪島、珠洲、能登町では最大5,216戸が、再び断水しました(内閣府 防災白書)。
2025年8月には、上旬に加賀北部で、中旬に能登北部で大雨が続き、浸水や道路の通行止め、鉄道の運休が相次ぎました。
地震で傷んだ基盤は、次の雨で再び止まります。復旧の計画、代替ルート、備蓄は「一度使えば終わり」ではなく、再装填を前提にする必要があります。
2026年8月27日からの大雨により、羽咋市、志賀町、宝達志水町、中能登町に災害救助法が適用されました。
この大雨で被害を受けられた皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。
三つの地域で、止まり方は違った
| 地域 | 停止の中心 | BCPの重心 |
|---|---|---|
| 奥能登 | 孤立、断水、港、生業の基盤、宿泊拠点の不足 | 孤立日数の自給計算。水と通信の代替。再被災を前提にした計画 |
| 能登中部 | 港湾、市場、観光。市場の競りが止まり、再開まで時間を要した | 港・市場・観光の「再開条件」を分解する |
| 金沢・加賀 | 能登の仕入先・販売先・観光周遊・物流・人材の停止が波及した。加えて、金沢直下の固有リスク(下記) | 取引先マップ。需要側の停止。正確な情報発信 |
金沢・加賀のもう一つの備え —— 森本・富樫断層帯
能登半島地震からの復旧が続く石川県ですが、国の評価は、金沢・加賀にも備えの必要を示しています。森本・富樫断層帯は、津幡町から金沢市街地を経て白山市に至る約26kmの断層帯で、県の被害想定では最大震度7が想定されています。
県内の主要活断層帯(国の長期評価)
地震調査研究推進本部は、主要活断層帯で起こる地震の発生確率を相対的な高さで区分しています。県内では、次の活動区間が最も高い区分(Sランク)にあります(2026年1月1日算定)。
- 森本・富樫断層帯(マグニチュード7.2程度)
この区分は、発生時期や個々の事業所の被害を予測するものではありません。国の評価の区分は、被害の大きさを意味しません。区分が低い断層でも地震は起こり、国は「ランク分けに関わらず、どの場所でも強い揺れに見舞われるおそれがある」と注記しています。自社の所在地と断層帯の位置関係は、県の被害想定と国のハザードマップで確かめてください。
断層の評価は定性表現で示しています。国(地震調査研究推進本部)は今後30年以内の地震発生確率が3%以上を「Sランク」と表記し、地震後経過率(前回の活動からの経過時間を平均活動間隔で割った値)が0.7以上の活断層には、ランクに「*」を付記しています。同じ表に載る高山・大原断層帯 国府断層帯・阿寺断層帯 主部(北部)は岐阜県、砺波平野断層帯 東部・呉羽山断層帯は富山県、浦底-柳ヶ瀬山断層帯は福井県・滋賀県に位置するため除いています。出典: 地震調査研究推進本部「石川県の地震活動の特徴」(2026年1月1日算定)/同「今までに公表した活断層及び海溝型地震の長期評価結果一覧」(令和8年1月14日現在)注3
歴史的な街並みと木造建築が集積する金沢だからこそ、「揺れたあとも事業を続ける準備」が問われます。
将来のリスクは、県の地震・津波被害想定と土砂災害情報システムで、住所別に重ねて確認できます。
損害がなくても、事業は止まる
石川では、この定番の話を逆向きにも語れます。金沢・加賀の企業の多くは建物の被害が軽微だったにもかかわらず、事業への影響を受けました。
道路が開くことと、物流が戻ることは別
幹線の緊急啓開(約9割・1月15日)と、通常の物流は別の段階です。法面、片側通行、渋滞、燃料、運転手、荷受け先。すべてが揃って、はじめて物は動きます。
港の建物と、港の機能は別
地盤の隆起で泊地と航路が浅くなり、施設が残っていても、出港も接岸も荷揚げもできなくなりました。69の漁港のうち60が被災。北部6市町の漁獲金額は、2024年12月の時点で前年の7割(量は6割)でした(水産庁)。
生業は、ひとつの塊
繊維や工芸品の分野では、約2割の企業で生産再開のめどが立たない時期がありました(2024年3月時点)。店舗、工房、職人、道具、原材料、顧客、販売場所。すべてが揃って、はじめて再開できます。
自社が無傷でも、売上は止まる
能登の宿泊と催事の停止は、金沢・加賀の周遊、予約、消費にも波及しました(県観光統計)。自社の所在地に被害があるかどうかと、売上が止まるかどうかは、別々に起こります。
二つの読者へ
石川の数字
| 何の数字か | 石川県の値 | 読み方 |
|---|---|---|
| 事業継続力強化計画の累計認定 | 1,000件超(令和8年7月末時点) | 国の制度に認定された件数。策定率ではありません |
| BCP策定意向あり(TDB・2026年) | 53.2% | 全国は50.5%。策定済み・策定中・検討中の合計。回答企業の値であり、県内全企業の推計ではありません |
| 県独自の策定済み率 | 同一条件の公開値なし | 推測値は掲載しません |
まだ文書がない方へ —— 経験はある。文書がない
石川で計画をまだ持っていない会社は、リスクを知らないのではありません。復旧を優先してきた。あるいは、経験が頭の中にだけある。そのどちらかです。
全国調査で策定していない理由の上位は「スキル」「人材」「時間」の不足ですが、復旧作業と並行して事業を続けてきた石川の事業者に、これは最も強く当てはまります。
あなたが2024年にやったこと。安否確認の順番、水の工面、取引先への連絡、再開の判断。それ自体が、BCPの素材です。文書になっていないだけです。その経験を、BCP-AIへの回答として書き出すところから始められます。
計画がある方へ —— 2024年の実際と、照合しましたか
石川の策定済み企業には、他県にない資産があります。計画と、実際の災害を突き合わせることができる。
計画の想定と実際のずれ——断水の期間、通信の途絶、道路の復旧と物流の時差、9月の再被災——は、反映されていますか。地震単独の想定のままになっていませんか。
TDBの2025年調査には、石川の企業から、BCPの策定が自社の課題の可視化や業務の棚卸しに役立ったという趣旨の声が寄せられています。点検と改訂は、災害のためだけの作業ではありません。
復旧の支援と、BCPの支援
2026年8月27日からの大雨で影響を受けた事業者の方へ。石川県の支援策や相談窓口は、石川県の案内をご確認ください。
石川では、この二つを同じ表に並べます。復旧が先で、計画はその過程で。その順序を尊重しています。
| 資源 | 内容 | 使い方 |
|---|---|---|
| なりわい再建支援補助金 | 施設・設備の復旧費用を補助する制度です。公募の時期と条件は年度により異なります。 | 能登事業者支援センター(のと里山空港4F)、金沢事業者支援センター(県庁1F)、出張個別相談会。最新の情報は県のページで |
| 伝統工芸事業者の再建支援 | 県指定の工芸は県の補助金、輪島塗など国指定の工芸は国の災害復興事業が支援の枠組みです | 工芸事業者向け |
| 県の復旧・復興情報 | 石川県「令和6年能登半島地震に関する情報」ページ | 道路・水道・港の最新状況の基点として |
| いしかわ版BCPシート | 県が作成した簡易様式 | 最初の一枚として。BCP-AIの出力と併用できます |
| ISICO・商工会・商工会議所 | セミナー、無料の専門家派遣 | 最新の情報は各機関のページで |
| 事業継続力強化計画(ジギョケイ) | 国の認定制度。県内で累計1,000件超 | 税制措置、金融支援、補助金審査上の加点。復旧のあとの「次の一歩」として |
事業継続力強化計画の認定や、補助金・融資などの可否は、各制度の要件と審査によります。BCP-AIで作成した計画がそれらを保証するものではありません。本ページの認定件数は、BCPを策定した企業の割合や利用者数とは別の数値です。
2024年の経験を、次に動ける計画へ
復旧作業のあいまに、少しずつ進められます。あなたの会社があの時どう動いたかを、BCP-AIへの回答として書き出してください。
BCP-AIは、所在地や業種などの質問に答えるだけで、自社のBCP(事業継続計画)の初版を作成できます。
奥能登の事業者の方へ —— 復旧と並行して、計画に
復旧作業が最優先。その通りです。いま進めている復旧の手順そのものが、次の災害に使える計画の素材です。孤立、断水、再被災の経験を、そのまま初版に。
奥能登の経験から始める孤立日数・水の工面・通信途絶時の連絡・9月豪雨での再停止
能登中部の事業者の方へ —— 港と観光の「再開条件」を、文書に
港、市場、宿は、建物が直っても条件が揃うまで再開できない。それを経験した地域です。再開までに何が必要だったかを、次に使える再開条件表として書き出せます。
能登中部の経験から始める港・市場・観光の再開手順、取引先・予約への説明、季節要因
金沢・加賀の事業者の方へ —— 自社は無傷でも、止まった。次に備える
能登の停止が、仕入、販売、観光、物流を通じて自社に届いた。その経路を計画に写し取れます。あわせて、金沢市街地の直下にある森本・富樫断層帯という、金沢・加賀固有の備えも。
2025年8月7日には、金沢で日降水量332.0ミリと、統計開始以来の最大を観測しました。
金沢・加賀の経験から始める取引先マップ、需要側の停止経験、直下型を含む自拠点リスク